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広島地方裁判所呉支部 平成6年(ワ)20号 判決

原告

桒田弘子

右訴訟代理人弁護士

水中誠三

被告

中元三男

右訴訟代理人弁護士

平見和明

主文

一  被告は、原告に対して、次の各金員を支払え。

1  三六三万五二五四円及びこれに対する平成五年七月二八日から支払済みまで年五分の割合による金員

2  平成六年二月一日から平成八年七月末日まで一か月あたり五万八〇〇〇円の割合による金員

3  平成八年八月一日から本判決確定の日まで一か月あたり五万七〇〇〇円の割合による金員

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は四分し、その一を被告の負担とし、その余は原告の負担とする。

四  この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一  請求

被告は、原告に対し、二四六九万七〇五九円及びこれに対する平成五年七月二八日から支払済みまで年五分の割合による金員、並びに平成六年二月一日から本判決確定の日まで一か月あたり五万八〇〇〇円の割合による金員をそれぞれ支払え。

第二  当事者の主張

一  当事者間に争いのない事実

1  別紙物件目録一記載の土地(以下「原告土地」という。)及び同目録二記載の建物(以下「原告建物」という。)は、訴外亡桒田智が、所有していたが、同訴外人は平成四年七月二九日に死亡し、その配偶者である原告らが、これを相続した。

被告は、原告土地の裏手に続く別紙物件目録三ないし六記載の各土地(以下「被告土地」と総称する。)を所有している。

2  原告土地と被告土地は、被告所有の別紙物件目録三記載の土地上の高さ約七メートル、幅約二〇メートルの石垣(以下「本件石垣」という。)によって区画されている。

そして、被告は、被告土地上に建物を所有して居住しているもので、民法七一七条の土地の工作物である本件石垣の所有者かつ占有者である。

3  本件石垣は、平成五年七月二八日午後三時三〇分から同日午後四時三〇分ころにかけて、折からの降雨によって地盤が緩み、高さ約七メートル、幅約二〇メートルの全面にわたって崩壊し、そのため、大量の石及び土砂が原告土地及び同土地上の原告建物に崩れ落ちて原告建物は全壊し、原告土地は土砂に埋まった(以下「本件事故」という。)。

4  原告は、本件事故後、訴外亡桒田智の遺産分割手続により、原告土地及び原告建物にかわる本件事故による損害賠償請求権を取得した。

二  原告の主張

1  本件石垣の設置又は保存の瑕疵

(一) 本件石垣が崩壊し、原告建物を押しつぶしたことからして、同石垣の設置又は保存に瑕疵があったことが推定される。

(二) 本件石垣は、昭和初期に設置されたもので、既に相当年月を経過しており、以前から、本件石垣中の二か所に膨らみができ、石と石の目地がはずれてひび割れがあり、危険な状態であった。

そのため、原告は、再三にわたり、被告や被告土地の前所有者である訴外寺田谷清則に修理を要求し、平成五年七月一五日には、呉市都市計画課開発指導係に現場の調査を依頼していた。

ところが、被告は、原告の右要求を無視し、放置していた。

そのため、本件事故当時、折からの降雨によって地盤が緩み、本件石垣及び土砂が崩壊して本件事故が発生したものである。

(三) 鑑定の結果は、本件石垣の崩壊は、表流水のすべり面への流入が大きな原因のひとつになっていたと考えられ、降雨による表流水や地下水が斜面に入らないような対策が講じられていたなら、本件石垣自体の補修を行わなくとも、その崩壊を防ぎえたかもしれず、被告宅前の側溝から溢れた表流水がすべり面へ流入したのが事実であれば、側溝の閉塞を防ぐとともに溢れた雨水が本件石垣に入らないようにすることは容易にできることであり、何らかの処置を行っておくべきであったと考えられると指摘し、訴外株式会社環境地質が行った被告宅地質調査は、今後の崩壊対策工事としては指導の側溝の断面増加の他、敷地内での地表水の排水溝の設置や場合によっては擁壁からの地下水の排水溝の実施も必要かも知れない旨を記載して、表流水のすべり面への流入対策の不備を指摘しているが、被告は、右各処置を何ら行っていない。

(四) なお、被告は、後記のとおり、本件石垣の崩壊が不可抗力によるものである旨を主張するが、本件石垣の崩壊前二日間の降雨量が被告主張のとおり二五六ミリメートルであったとしても、呉市においては、過去に、二日間の合計降雨量が244.63ミリメートル(昭和二〇年)、305.43ミリメートル(昭和四二年)に達したことがあり、本件事故の際の降雨量がまったく予想外の降雨量とは言えず、また、本件石垣が崩壊した平成五年七月二八日に、呉市内において、石崖が崩れて家屋が全壊するような被害が生じた事例は本件石垣の崩壊のみであり、更に、鑑定の結果によれば、本件石垣をのり枠工及びコンクリート擁壁工によって全面的に改修を行っていれば、本件事故当時の降雨があり、多少の表流水や地下水が斜面に入っても十分に崩壊を妨げたと認められるから、本件石垣の崩壊は不可抗力によるものではない。

2  原告は、本件事故により、次のような損害を被った。

(一) 原告建物の滅失による損害

一〇二〇万円

原告建物は、本件事故によって全壊し、その再築には二〇四〇万円の費用を要するが、同建物が、昭和四年に建築されたものであることを考慮すると、その滅失時における時価は、右再築費用の二分の一の一〇二〇万円と評価すべきである。

(二) 家具、什器及び備品等の滅失、修理又は移転による損害

合計一三七万五〇五九円

(1) 家具、什器及び備品等の滅失又は紛失による損害

一一一万六八五八円

(2) 原告建物からのピアノの搬出、保管及び借家への搬入代金

七万〇〇四〇円

(3) 引越代金 九万円

(4) クーラー及びテレビの各修理代金 六万三八六〇円

(5) ふとん及び座布団のクリーニング代金 二万七四〇〇円

(6) 電話移設費 六九〇一円

(三) 家賃等

二三万二〇〇〇円及び平成六年二月一日から本判決確定までの間一か月あたり五万八〇〇〇円の割合による賃料相当の損害

原告は、本件事故により、住居としていた原告建物が全壊したため、他に住居を賃借せざるをえなくなり、その仲介手数料及び賃料として平成六年一月までに合計二三万二〇〇〇円を支払い、今後も本判決確定まで、右賃料として一か月あたり五万八〇〇〇円の割合による金員を支払う必要がある。

(四) 慰藉料 一〇〇〇万円

原告は、本件事故により原告建物を失い、一時実兄の家に身を寄せたが、その後はアパートを借り、娘とふたりで生活しているが、被告からは、今日に至るまで見舞金はおろか、明確な謝罪の言葉もなく、また、全壊した家屋は被告が取り除いたものの、崩壊した石垣と土砂は、本訴提起後である平成六年三月末ころになってようやく撤去された。

原告は、再三にわたる本件石垣の修理要求を無視された上、本件事故後も被告の右対応によって重大な精神的苦痛を受けたもので、これに対する慰藉料は金一〇〇〇万円を下ることはない。

(五) 弁護士費用 二八九万円

原告は、本訴の提起、遂行を原告代理人に依頼し、日弁連報酬基準規定に従って算出された金額の報酬を支払う旨を約しており、本件事故と相当因果関係のある弁護士費用としては二八九万円が相当である。

3  よって、原告は、被告に対し、不法行為(土地工作物責任)の損害賠償として、二四六九万七〇五九円及びこれに対する本件事故の日である平成五年七月二八日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金、並びに平成五年一〇月一日から本判決確定の日まで一か月あたり五万八〇〇〇円の割合による金員の各支払を求める。

三  被告の主張

1  本件石垣の設置又は保存の瑕疵の不存在

(一) 本件石垣は、昭和初期に設置されたものであり、その後約七〇年間にわたって崩壊事故が発生しなかったことから、その設置に瑕疵があったとは認め難い。

(二) 本件石垣に崩壊前に膨らみがあったとしても、かなり古いものである上、その範囲は広いものではなく、その程度も軽いものである。

また、次の各事実等を総合すると、被告には本件石垣の保存に瑕疵があったとも認められない。

(1) 被告は、被告土地を購入する前に、本件石垣を調査したが、本件石垣はかなり丈夫な石で積んであったので危険はないと思って同土地を購入したもので、同調査の際、本件石垣に膨らみがあることには気付かなかった。

(2) 被告は、その後、原告から石垣の膨らみを指摘されたので、業者に相談したが、崩れることは考えられないとの返答を得ていた。

(3) 被告は、原告がなおも心配していたので、業者に見積をさせた上、本件石垣の補修工事をしようとしたが、原告は、所有地が二、三〇センチメートル狭くなり、庭の池にかかるとして右工事を拒否した。

(4) 被告は、被告土地の水はけ等をよくするために、排水等の補修工事を行ったり、石垣面の蔦を除去したりした。

(5) 呉市都市計画課指導係長は、本件事故発生日の一三日前である平成五年七月一五日、原告からの要請により、本件石垣の危険性について調査をしたが、本件石垣には亀裂及び円形の膨らみが認められるが、長年の風雪に耐えて安定していることから、早急な危険を感じられず、被告に対して勧告をしなかった。

2  不可抗力

本件石垣が崩壊した一原因は、通常の量をはるかに越える多量の降雨にあり、その降雨量は平成五年五月二七、八日の二日間で二五六ミリメートルにも及び、右降雨量は過去に呉市で大規模土砂災害が発生した際の降雨量に匹敵するものであったと認められる。

すなわち、本件石垣の崩壊は、通常の量をはるかに越えた予想外の降雨によって発生したものであり、この豪雨がなかったならば、本件石垣は崩壊しなかったのであるから、本件事故は不可抗力によるものである。

3  責任割合

仮に、本件石垣の設置又は保存に瑕疵があり、同瑕疵と本件石垣の崩壊との間に因果関係があるとしても、予想外の降雨が本件石垣崩壊の重要な要因であることは明らかであるから、本件石垣崩壊の責任のすべてを被告に負わせることは酷であり、損害賠償における公平の法理に照らし、被告の責任は、設置又は保存の瑕疵が本件石垣の崩壊に寄与した割合に応じて負担すれば足りるものと解され、被告の右責任としては三割が相当である。

4  原告建物の損害額

原告は、原告建物の滅失によって一〇二〇万円相当の損害を被ったと主張するが、一般に建物滅失による損害は滅失当時の時価によるものとされ、その時価は固定資産評価額に相当する額であるとされているところ、原告建物の平成五年度における固定資産評価額は二三万一〇二七円である。

第三  当裁判所の判断

一  本件石垣の設置、保存の瑕疵について

1  証拠(証人森脇武夫、鑑定の結果(以下「鑑定書」と総称する。))によれば、本件石垣は戦前に築造され、その高さは約七メートル、勾配は約1対0.3程度の非常に急なものであり、現在の基準では、右高さ、勾配の擁壁は認められておらず、崩壊しやすい形状の石垣であったと評価しうることが認められるが、同時に、鑑定書は、本件石垣が、その築造後、本件事故まで安定を保ってきており、現在の基準に合致しないことが直ちに本件石垣の補修の必要性を裏付けるものではない旨も指摘しており、そのほか、本件全証拠を検討しても、本件石垣の設置に瑕疵があったと認めるに足りる証拠はない。

2(一)  鑑定書によれば、一般に、すべり土塊の崩壊は、すべり土塊を安定させようとする力がすべりに抵抗しようとする力よりも大きくなったときに発生するところ、本件石垣の崩壊の原因は、降雨による斜面崩壊を起こしやすい地形、地質的条件を備えた本件石垣が、長年月の降雨の繰り返しによってすべりに抵抗する粘着力が低下し、崩壊しやすい状態になっていたところに、通常の量をはるかに越える多量の降雨があり、本件石垣を滑らそうとする力が極めて大きくなるとともに表流水や地下水がすべり面に流入し、すべりに対する摩擦抵抗が減少したためと考えられる。

(二)  証拠(乙一の一及び二、三、弁論の全趣旨)によれば、本件事故の前日である平成五年七月二七日に気象庁呉測候所が観測した降雨量は134.5ミリメートル、同月二八日の本件事故直前である午後三時までの同降雨量は一二二ミリメートルであったことが認められ、右各降雨量は、通常の降雨量を大きく越えるものではあるが、乙一の一によれば、呉市内においては、これまでにも昭和二〇年九月一六、七日の二日間で244.6ミリメートル、昭和四二年七月八、九日の二日間で305.4ミリメートルの降雨があり、右いずれの際にも大規模災害が発生したことが認められるから、本件事故前の降雨量は、数十年に一度はありうべき程度の降雨量であって、これをもって不可抗力にあたるということはできない。

(三)  証拠(甲三七、証人井垣武久、原告、被告、弁論の全趣旨)によれば、次のとおり認められる。

(1) 本件石垣は、昭和一〇年ころに築造され、以後、特段の補修はなされていない。

(2) 原告は、昭和五八年ころ、本件石垣に亀裂や膨らみが複数発生していることに気付き、被告土地の前所有者である訴外寺田谷清則に対し、その補修を依頼したが、補修工事がなされないので、昭和六〇年ころにも、再度依頼をした。

また、原告は、被告が被告土地を取得してからも、昭和六一年八月ころと昭和六三年三月ころに、被告に対して、同様の依頼をした。

(3) 更に、原告は、本件事故直前である平成五年七月一五日、呉市都市計画課指導係に対し、被告への本件石垣の補修の指導を要望し、同日、右係長らが、本件石垣を見分したが、その際、本件石垣には、その上端部分から下端部分まで走るもの等複数の亀裂、本件石垣の中腹あたりに、直径1.5メートルから二メートルの円形状で、真ん中に向かって膨らんでいる部分があり、そのほかにもう一か所少し膨らんでいる部分が認められた。

(4) しかしながら、結局、被告が、本件石垣の本格的な補修工事を行ったり、本件石垣への表流水や地下水の浸透防止措置をとることもないまま、本件事故に至った。

(四)  鑑定書によれば、右(三)(2)及び(3)認定のような本件石垣の外観上の異常は、本件石垣内部の何らかの異常を示すものであり、石垣の所有者である被告としては、先ず、専門家に詳細な調査、検討を依頼し、補修工事の要否とその内容を決すべきであったと認められる。

そして、同じく鑑定書によれば、本件石垣の補修方法として可能かつ適当な方法は、アンカー工を併用したのり枠工及びコンクリート擁壁工(もたれ式擁壁)であり、前者の工法は比較的狭い場所での施工も可能で、後者も、設置場所が狭隘な場所や人家密集地帯でも小土工で施工できることが認められ、右のり枠工又はコンクリート擁壁工によって、本件石垣の全面的補修工事を行っていれば、本件事故当時の降雨量があり、多少の表流水や地下水が斜面に入っても十分に崩壊を防げたと考えられるという。

また、鑑定書は、本件石垣の崩壊の直接的な要因は多量の降雨とそれにともなう表流水、地下水の斜面への流入であるから、降雨による表流水や地下水が斜面に入らないような対策が講じられていたならが、本件石垣自体の補修を行わなかったとしても、その崩壊を防ぐことができた可能性もあると指摘している。

ところが、実際には、右(三)記載のとおり、右のような望ましい措置は何ら行われなかった。

(五) 以上からすると、本件石垣は、その保存について、通常有すべき安全性を欠いていたと認められ、右瑕疵によって、本件事故が引き起こされたものと推認されるから、本件石垣の所有者である被告は、本件事故によって原告に生じた損害を賠償しなければならない。

3  被告は、前記第二の三1(二)記載のとおり主張し、被告には本件石垣の保存について瑕疵がなかった旨を主張するが、右主張は、被告の主観的な過失の不存在を言うものであって、本件石垣が通常有すべき安全性を欠くとの前記認定を左右するものとはなり得ず、理由がない。

また、被告は、前記第二の三2記載のとおり、本件事故は不可抗力に基づくものである旨を主張するが、右主張が理由がないことは前判示のとおりである。

二  損害

1  原告建物の滅失による損害

一〇九万五〇〇〇円

原告建物が本件事故によって全壊したことは当事者間に争いがなく、証拠(甲二、原告)によれば、平成五年九月二日時点における原告建物の再築工事費用の見積額が二一九〇万円であることが認められる。

しかしながら、証拠(乙五、原告、弁論の全趣旨)によれば、原告建物は、昭和六年に建築された木造瓦・セメント瓦葺平家建の居宅であり、その新築から本件事故による滅失まで既に相当の長年月が経過しており、原告建物の固定資産税評価額が本件事故のあった平成五年度で二三万一〇二七円に過ぎないことを考えると、その後、原告建物については、昭和四八年に台所、茶の間、洋間及び洗面所等の改修工事、昭和五九年に窓や戸の改修工事、更に本件事故直前である平成五年四月ころにも工事費三三七万六六四九円をかけて風呂及び便所等の改修工事が行われたことを考慮しても、本件事故による滅失当時の原告建物の時価は、右新築費用の五パーセントである一〇九万五〇〇〇円を越えることはないと考えられる。

2  家具、什器及び備品等の滅失、修理又は移転による損害

合計四七万八二五四円

(一) 家具、什器及び備品等の滅失又は紛失による損害

合計二二万〇〇五三円

証拠(甲一、原告、弁論の全趣旨)によれば、原告建物の全壊にともない、原告建物内にあった家具、什器及び備品等(以下「家財道具」という。)は、原告建物の表側の座敷に置いてあったものを除き、その大部分が滅失したことが認められる。

原告が本件事故によって失った右家財道具の具体的な品目及び時価は不明であるが、証拠(甲四、一三ないし一五、一八ないし二〇、二二ないし二五、二八、三〇ないし三四、原告、弁論の全趣旨)によれば、原告は、本件事故後、転居先での生活のために、石油ストーブ等の暖房器具四点を合計九万一七七三円で、ミシンを六万円で、食卓セット、食器棚、書棚等の家具一〇点を合計五五万円で、冷蔵庫、洗濯機、電子レンジ、アイロン及び炊飯ジャー等の電気製品六点を合計二三万九六四八円で、ガス湯沸器及びガステーブルを合計四万一〇九七円で、日用品や雑貨類計八九点を合計一〇万四五六七円で、並びにレンジ台を一万三一八四円でそれぞれ購入したことが認められ、右合計額は一一〇万〇二六九円となる。そして、原告が買い求めた右各物品が、本件事故前に原告建物に存した家財道具を種類、数量及び品等において凌駕するものであるとも認められないから、減価償却を考慮すると、本件事故によって滅失した原告建物内の家財道具の滅失当時の時価総額は、原告が本件事故後に購入した右代金合計額の五分の一である二二万〇〇五三円(一円未満切り捨て)と認めるのが相当である。

(二) 原告建物からのピアノの搬出、保管及び借家への搬入代金

七万〇〇四〇円

証拠(甲四、一七、原告)によれば、原告が、本件事故により、原告建物からのピアノの搬出、保管及び転居先である借家への搬入代金として七万〇〇四〇円の支出を余儀なくされ、右同額の損害を被ったことが認められる。

(三) 引越代金 九万円

証拠(甲四、二一、原告)によれば、原告が、本件事故により、原告建物からの転居を余儀なくされ、その引越代金として九万円を支払い、右同額の損害を被ったことが認められる。

(四) クーラー及びテレビの各修理代金

六万三八六〇円

証拠(甲四、一〇ないし一二、原告)によれば、原告が、本件事故により、クーラーの修理代金として二万七八一〇円、クーラーの転居先への取付費用として三万一九三〇円及びテレビの修理代金として四一二〇円の各支払を余儀なくされ、右各金額の合計額である六万三八六〇円の損害を被ったことが認められる。

(五) ふとん及び座布団のクリーニング代金 二万七四〇〇円

証拠(甲四、一六、原告)によれば、原告が、本件事故により、ふとん及び座布団のクリーニング代金として二万七四〇〇円の支出を余儀なくされ、右同額の損害を被ったことが認められる。

(六) 電話移設費 六九〇一円

証拠(甲三五)によれば、原告が、電話移設費として六九〇一円の支出を余儀なくされ、同額の損害を被ったことが認められる。

3  家賃等

二三万二〇〇〇円並びに平成六年二月一日から平成八年七月末までの間一か月あたり五万八〇〇〇円の割合による金員及び平成八年八月一日から本判決確定までの間一か月あたり五万七〇〇〇円の割合による金員

証拠(甲二六、二七、原告、弁論の全趣旨)によれば、原告は、本件事故によって住居であった原告建物が全壊したことから借家住まいを余儀なくされ、平成五年九月から、呉市焼山東四丁目七―六所在の借家を賃料月額五万八〇〇〇円で賃借し、平成六年一月までの間に賃料として少なくとも二三万二〇〇〇円を支払い、その後も平成八年七月末まで右賃料の支払を続けたこと、及び同年八月から現在に至るまでは呉市神原町一八―一六所在の借家を賃料月額五万七〇〇〇円で賃借していることが認められる。

右各借家の賃料は、原告が原告建物に代わる建物を得るのに必要かつ合理的な期間内において、本件事故と相当因果関係のある損害であると認められ、また、原告の年齢、経済能力等の諸般の事情を考慮すると、右合理的期間は本件判決の確定までとするのが相当である。

4  慰藉料 一五〇万円

前判示の各事実によれば、原告は、本件事故前から本件石垣の補修を被告に対して求めていたにもかかわらず、右要望を聞き入れられることなく、原告の在宅中に本件事故の発生に至り、同事故により原告建物と家財道具の大部分を一挙に失い、以後、借家生活を続けることを余儀なくされているものであり、補修要請が入れられなかった無念さ、本件事故の際の生命身体に対する恐怖、一瞬にして数十年にわたって住み慣れた原告建物と家財道具を失った衝撃等本件事故によって原告の受けた精神的苦痛には甚大なものがあり、前記の財産的損害に対する損害賠償に加えて、右精神的苦痛に対する慰謝料も認容されなければならず、右経緯等諸般の事情を考慮すると、その金額は一五〇万円とするのが相当である。

5  弁護士費用 三三万円

弁論の全趣旨によれば、原告が、本訴の提起、遂行を原告代理人に依頼し、報酬の支払を約したことが認められ、本件訴訟に関する諸般の事情を考慮すると、本件事故と相当因果関係のある弁護士費用相当の損害は、三三万円と認めるのが相当である。

三  なお、被告は、前記第二の三3記載のとおり、被告の責任は三割に限られる旨主張するが、無過失責任である土地工作物の保存の瑕疵に基づく損害賠償責任において右主張の理由は見出し難い。

四  以上によれば、原告の請求は主文第一項掲記の限度で理由があるからその限度で認容し、その余は理由がないから棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判官佐々木亘)

別紙物件目録〈省略〉

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